ハワイ★マジカルプレイス
ハワイというとほとんどの人がフラダンスや太陽、サーフィンのことを思い浮かべる。 でもこの島はタクシー運転手がUFO について話したり、現代のシャーマンことテレンス・マッケナが彼のコレクションの精神に影響を及ぼす植物を育てるなど不思議な場所でもあった。
ヤシの並ぶビーチではそろそろパーティが終わりに近づく。マイナーなこの日の祝賀パーティのビッグニュースは新たに発見された高度なサイケデリック特性(幻覚的で創造的な陶酔状態)を持つハウスプラント「SALVIA
DIVINORAN 」の発表だった。これはまったく合法の植物。幻覚を誘発する"ものすごい勢いで進む40分間の愉しいローラーコースター体験"を得るには20枚ほど葉っぱを噛んで、出てきた汁を頬にしみ込ませ反射的にもよおすオエーッをじっと耐えて待てばよい。
みんなが帰ろうとしていると突然大きな波しぶきを上げてダイバーのダンが海から駆け戻った。ダンはマウイ島を取り巻く暗礁に沿ってスキューバとシュノーケルの中間のスヌーバ・ダイビングをしながら輝くような色彩の熱帯魚が数珠つなぎに群れるのを観察している。それにまた島の湿った風上側に育つヴァラエティに富んだ地元のシロシビン(メキシコ産キノコから採れるLSD
に似た幻覚剤)マッシュルームのひとつ、マウイマジックでトリップもする。
ダンは手段としてのサイケデリック体験を世界で真っ先に擁護したテレンス・マッケナ主催の3日間のセミナーとワークショップに参加するためハワイ、マウイ島に集まった150人あまりの人々のひとりにすぎない。マジック・マウイの週末は奔放なレイヴパーティなどではなく、この自主選択の精神医学を推進する人々の集まりを築いている多様な仲間と共に探検して、現実的なアイディアを交換する絶好の機会だった。
テレンス・マッケナの出現は激しい論争の種になっている。彼のひたむきな25年は科学の権威とやらのせいで危険をはらんだものとなる。科学界の長たらしい徒弟制度にもかかわらず、ここ8年は広まる悪評とますます人気の出ている彼の著書・ヴィデオ・CD
、現代ポップカルチャーのなかに同化した彼の考えからもたらされるまずまずの生活水準を手にしていた。
マッケナのレクチャーはホテルの会議室で行われる。ホテルはこんなサイケデリック・セミナーよりゴルフを求めてアメリカの冬を逃げ出してきたようなご婦人方を多くもてなしてきたはずだ。でもそこが重要なのかもしれない。サイケデリック文化は、もうアングラとか欄外の域に置いておく必要はないんだという人々の認識が。「もうそろそろ事実を理解してもいい頃だよ。サイケデリック人間は間違った非難を受けている」とマッケナが皮肉を言う。3時間に及ぶレクチャーの内容は、人類が体験できる「最高に深遠な体験」と彼が呼ぶ精神に影響を及ぼす自然発生する物質DMT
や処方には議論のある"ハッピーピル" プロザックについて、母なる大地との均衡を回復するためのシャーマン文化復活の必要性、男子誕生の遺伝子を制限することで社会を女性化させること、失われた人間の絆を開発するシロシビンについて、クラックやヘロインに含まれる中毒を引き起こす新しいドラッグ、イボゲインの謂われ、そして物事には理由がある云々。参加者はマッケナの哲学のトワイライトゾーンを旅する。
この雑多な聴衆を魅了するのは大げさな売り込みなどではなく、サイケデリックの使用と濫用へのアプローチにつながるサイケデリック神話や間違った情報のまやかしを暴くことだ。いい気分になって瞑想にふけるより、ここで追求するのは情報だということ。昔のニューエイジ・ピープルは別として、ここに集まる人々の大多数が若くて好奇心旺盛な学生なのが目を引く。新しいサイケデリック精神、ミレニアム・キッズへのアプローチ「Let's
Get Real 」の反映だ。サイケデリックで実践すべきは「体験させて、現状をやめにしてドロップアウトさせる」ではなく、「体験させて、手がかりを与え、そこで踏んばらせる」だった。
マッケナのアピールはサイケデリック社会ではなく実際にまともに暮らしてる人々の見地に立ちサイケデリック体験を理解しようと努める点で、DMT のようなドラッグについて語るとき例の謎めいた60年代のたわごとなど一切なしに情報を与えた。彼は頑固なまでにドロップアウト・ブギーが怠惰な選択だとする。「世間知らずでいられるか!」「責任は負わなければならない。自分のクソの始末ができるようでなければ心の中を探検する資格はない。サイケデリック文化はとても革新的だ。ファッション、アート、テクノロジー、そのすべてを経験している社会の一部からもたらされる」
彼自身、競争の激しい最先端テクノロジーに深くのめり込んでいる。ヴァーチャル・ナイトクラブのアトラクションに姿を見せることから、様々なCD ROM
プロジェクト、ソフト開発とその配給、インターネット・プロジェクト、数え切れないほどのテープとヴィデオの類まで。このフロンティアを最大限探検している彼が提案するすべてがそうだった。
マッケナのプロフィールは表面的には典型的60年代ヒッピー活動家のそれだ。彼は抑圧されたカトリックの小さな町コロラドでSF 小説と暗いB 級映画を糧に大きくなった。「私のドラッグ入門はSF
だった。アベマリアを詠唱することでもパンと水だけで精進することでもなく、最初に影響された歴史から学んだことが神の啓示だった。そしてまもなくオールダス・ハックスリーを見つけて彼がよき指導者になった。<知覚の扉>、<天国と地獄>は私には声明文のようだったよ」
テレンスと、最も過激なアマゾンの旅に同行した精神薬理学者のデニス兄弟は、あまりのけったいぶりに町の野球仲間から村八分にされた。テレンスは特に太古の文化に興味を持つようになり、石の収集と人類学の世界に引きこもる。そして60年代後半の"政治の大変革、コミューン、ヒッピーの余波、ハッシッシ、極上のマリファナとLSD
"のカリフォルニア州バークレーにやって来る。結局それが彼の運命を決める。
最も論議を呼びそうなマッケナの仕事、時間の論理をフラクタルの波として説明する精密機器「TIMEWAVE 」は、特に意義深い70年代初期のDMT
シロシビン・トリップの成果だ。彼は時間と空間の数学上の構造を使用可能な公式に置き換えることで人類の歴史をコンピュータを使って表示することができた。このグラフを未来にまで延長するとついに2012年12月21日AM
11:10歴史が終わるというのが彼の主張だ。この時点で歴史は今あるような形態での存在をやめて、時間に属さない集合的なハイパースペース的意識に姿を変える。何のことかわからなくても気にすることはない。マッケナにもわからないのだから。
これまで終焉を予言してきた人のようにもし何も起こらなかったらどうする?「私はもうすぐ65歳。ハワイに住んで謝罪するよ。過激な考えなのは承知してる。でもね、そもそも宇宙は何もないところから現れたのだから、それがビッグバンで終わると考えても信じられないことではないと思うんだよ」
マッケナによればDMT がLSD を創り出し、まるでアスピリンのようにそれを吸引した人をほんの一瞬だが即座にハイパースペース界に運び込む。「これは想像力の範囲を超えた体験だ。10秒以内にエイリアンという存在が生息する世界に運ばれて、"勝手にドリブルするバスケットボール"と私が呼んでるいたずら好きが君に乗り移って跳ね上がる。彼らの次元にいるのに常にいつもの自分なのにはびっくりさせられる。これは幻覚とかの気分とは違う。そこがリアルな場所なら彼らの存在もリアルだ。彼らはコミュニケートするのを義務づけられている」
これから2012年までのマッケナの計画は、「世界の精神に影響を及ぼす」とされる植物を通じて着々と進められている。その植物を使用する原住民の成果を再現するためのユニークな保全地区がハワイ群島最大の島ビッグアイランドにあって青々と生い茂った豊かなジャングルという環境がこの珍しい植物に役立っていた。活動中のキラウェア火山の麓のジャングルを切り開き原始的生活を営むマッケナは、この植物の効果と潜在能力についての調査がないときには世界中、特にアマゾンの熱帯雨林の危機にさらされる珍種の貯蔵に精力的に取り組んだ。
「もっと進んだ未来の世代のために保存しておきたい生きたミュージアムみたいなものでね。一般的に正しいとされる医者がそれらの植物が持つ治癒力を十分に理解してくれることを願っている。自然には答がある。破壊があまりにもひどいせいで絶滅してしまった種類もあり、もうその存在は知りようがない!」
型にはまった科学特有の表現では彼は正気ではないにしても、「世界の意識の変換が地球を救う」という彼の夢はリサイクル、河川の汚染を止める、熱帯雨林の破壊の中止という問題では他の人の夢同様、有効的だ。違っているのはサイケデリックの利用とシャーマンの儀式への回帰を通してやり方を変えたがる傾向にあることで、彼はカリスマ性のある変わり者に過ぎなかった。
「ここで起きてることは奔放な変人の集まりなんかじゃない。私たちにはなすべき計画とヴィジョンがあり、あらゆる分野で責任ある仕事を維持してきている。私たちは気違いだろうか?それに私にできる仕事が他にあるだろうか?」
日曜の午後、すべてが終了する。マッケナは熱狂的な称賛を浴びた。島の美しさに単純にリラックスしてビーチまで全力疾走していく人。マッシュルームを探す人。シロシビンの助けがあってもなくても定期的にUFO
が見れるという噂の冷たい月の表面、ハレアカラの大噴火口を訪ねて奥地にドライヴする人。
UFO を見たと言うタクシー運転手の1965年型シボレー・コンヴァーチブルのステレオからはボブ・マーリーが高らかに鳴り響く。レゲエはここハワイの音楽の大黒柱だったが、ボブ・マーリーはサイプレス・ヒルの「Insane
In the Brain 」に道を譲っている。まさに彼らが演奏するのは私たちの歌だ。
▲参考資料:THE FACE April 1994
●THE INVISIBLE LANDSCAPE :RIDER (この本にはDMT シロシビン・トリップが詳細の記されている)幻覚世界の真実:第三書館、神々の糧:第三書館
CD <DMT >:DELIRIUM RECORDS (DMT ラッシュについて語っている)
★人を圧倒するほどのヴァイタリティの持ち主でしゃべり出すと2時間や3時間止まらずにしゃべり続けたテレンス・マッケナは、残念ながら2012年を待たずに脳腫瘍のため2001年4月3日他界した。
▲TAMA- 16 掲載、1994
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