これは今起こっている本当のお話
インクブルーの背景に散乱する無数の点々、澄みきった砂漠の夜空に浮かぶ星に似ているがこれは違った。この銀河はマヘド青年の大腿骨を砕くイスラエルのライフルから発射された銃弾の結末、多数の鉛の破片と骨の破片で2週間後脚は切断を余儀なくされたからイメージ自体がもう存在しないもののイメージだった。イスラエルが偏愛する爆薬がパレスチナの若い世代を不具にしている。
イスラエルのルールに投石での抗議が続くこの5ヶ月間に受けた銃弾の傷から大勢のパレスチナ人少年と青年が一生涯不具になる可能性がある。1万1千人の負傷者(2月の数字)の多くがマヘド青年同様、武器を持たない一般人が撃たれたときに負傷した。
負傷者が不具になる可能性が高いのは主にM16 で放った粉々に砕け散る銃弾のせいだ。1899年「不必要な苦しみと余計な危害を加える」としてハーグ国際協定で禁止されたダムダム弾によく似た敵に最大級のダメージを負わせる軽量級の実戦用ライフルとしてヴェトナム戦争中に売り出されたアメリカ・コルト社製の武器が一般市民のデモ隊と抗戦するイスラエル治安部隊によって盛んに使われてきている。
マヘド青年と他の負傷したパレスチナ人のレントゲン写真の調査を持ちかけたこの記事に同意する合衆国とヨーロッパの法廷弁論のエキスパートらが、一般市民に向けて繰り返し発射された「鉛の吹雪」と専門家が呼ぶ軍用破砕性爆弾の破片のパターンをウエストバンクとヨルダンの病院の負傷者のレントゲン写真から確認した。負傷者の多くが内臓へのダメージを倍増させる100メートル以内の短い射程距離から撃たれていた。
これを根拠に人権団体はほとんどが武装してないパレスチナ人に対する行き過ぎたイスラエルの武力行使を糾弾する。「人を傷つけるために高速度粉砕性銃弾を撃つのは戦場での手っ取り早い処刑手段だ」と人権への貢献でノーベル賞を受賞したロバート・カーシュナー医師は述べる。強硬論者の首相シャロンが出口の見えないスパイラル状態をどうさばくのかまだ判然としないが、やられたらやり返す以上にパレスチナ自治政府治安部隊の上級士官を暗殺するため武装ヘリを送った。ごく最近、自治政府内の中枢に近い幹部を複数殺害している。
イスラエル側スポークスマンの少佐は敵の発砲で命が危険なのをものともせずイスラエルはかなり武力の行使を控えめに行っていると主張する。「我々の命を危うくさせる人物に限って発砲する」「石は人を殺せる。石は武器だ」また別のスポークスマンは付け加えた、「我々に向けて誰も発砲してないときは実弾は使わない」
この記事のインタヴューに応じたヨルダンとウエストバンクの14の病院とクリニックの100人を越える患者、医師、医療職員らは大いに違ったことを述べた。パレスチナ側から発砲がなくても抗議の群衆を追い散らすのに催涙ガスをめったに使うことなくイスラエル兵は繰り返し武器を持たない民衆に実弾をぶっ放していると。
17歳のムスタファは11月15日イスラエルからガザを隔離するエレズチェックポイントで抗議の最中に腹部を撃たれた。腹部の包帯は1メートルの腸を切断する複数の手術の痕で痛ましい。イスラエル兵士らは15メートルの距離から投石する18人に向けて発射した。
18歳のファディも11月末抗議の投石をしてる間に腹部を撃たれた。一発の銃弾が2カ所の椎骨を吹き飛ばし腎臓を損傷、両脚を麻痺させる。アンマンのパレスチナ病院で外科医らが脾臓と椎骨の一部を切除した。
15歳のマモウドは戦車のハッチから銃弾を放つ兵士らに脚、背中、腹と3度撃たれた。一発が背骨に命中して椎骨が3カ所砕かれ神経を切り取り右足は麻痺している。医師たちは大腸の一部を切除して肝臓を修復した。彼は食べることができない。
パレスチナ人のあいだで肢体不自由の損傷がリハビリを要する負傷者を追い越す勢いで増えている。パレスチナ人ならほぼ例外なく千人のイスラエル軍と機動隊に付き添われたシャロン党首が聖なる場所、イスラエルにとってのマウント寺院に到着した9月28日に端を発するとする東エルサレムのアルアクサモスクのすぐ近くで始まった今回のアルアクサインティファーダの間に不具になる損傷率は87年〜93年まで持ちこたえた最初のインティファーダより高いとパレスチナ当局は言う。高い死傷者数は衝突をなんとか迅速に終わらせようと試みた当時の首相バラクの理性のない武力行使戦略で始まった。
インティファーダの最初の週に際だったのは頭部と上体の損傷だった。一陣の激しい国際非難が吹き荒れてからはそれがひどい脚と腹部の傷に置き換えられる。「これは拷問だ」とカーシュナー医師は言う。「パレスチナの全住民を脅すのにこの武器を使うというのが意識的な軍の決定だったという考えを私は疑わない。結果として数千人の若者が永遠に不具になった」
1963年ケネディ政権当時の南ヴェトナムで実験用に持ち出されたこの武器の戦場からの報告には「生きた人間の肉に貫通すると車輪のように動いて22口径どころでない大いに致命的な傷を引き起こす」とあった。73年には禁じられたダムダム弾によく似た傷の報告が配布されるが傷を引き起こす原因(弾の高速性、それて宙返りする、破片)に関する論争がその弾薬を禁止する運動を遅らせる。95年スイスがM16
の弾薬をハーグ協定の傘下に置くイニシアティヴを持ち出す。ヨーロッパの弾道学のエキスパートらもこれに同意。デンマークの病理学者ピーターJ.T.
クナデセンは結果的にまったくの破壊につながり破片が不必要な苦しみと無用の傷を加えるせいで目下軍隊で使われているM16 の弾薬すべてを禁止するべきだと力説した。その一方で元軍医、現在合衆国国防総省で弾道テストの指揮を執るマーティン・ファックラーは残酷なライフルの銃弾の概念は実際の戦争についてなにもわかってない人間の産物でたいてい政治的な隠れた動機があったと指摘する。「地雷、大砲など他のヘヴィー級軍用弾薬もまた残酷だ」
またM16 の擁護者には合衆国とNATO 軍の有能な軽量級軍用ライフルをねたむ元ソヴィエト連邦製ライフルの5.56 ミリ弾薬を禁止する試みがあったと言う。
いずれにしてもチャンスはわずかだ。たとえスイス政府の近代的な申し出、破片にならない銃弾で置き換えるにせよ今それを抱えるすべての国がM16 の弾薬を全部破棄しなければならない。安全でない弾薬はアメリカで製造される。「合衆国の軍隊に、あるいはその銃弾を製造する州の上院議員に銃弾を全部外国から購入しなければならないと告げるなんてことができるのか?巻き添えになる金があまりにも莫大すぎる」とクナデセンは言う。
人道主義者らが不必要に人を傷つける弾薬の禁止の考慮を討議する間もイスラエル治安部隊は武器を持たないパレスチナ市民にその武器を使い続ける。人権団体ヒューマンライツウオッチの報告には「実弾がごく日常的に違法かつ見境なく使われてきている」とある。
ナスリ青年は左の眼窩近くに突き刺さった最後の銃弾の破片を医者が抜き取るのを待っている。生え際の白髪と薄い銀縁のメガネが今年歴史専攻学科を卒業する予定だった彼を博学に見せている。10月25日彼は大規模なラマラのデモ隊に加わった。彼らはイスラエルが監視するチェックポイントまで行進して石を投げた。友人が頭を撃たれたのを見て突進したところを彼自身がスナイパーに撃たれた。弾はナスリの上唇に命中すると頭の中で7つの破片に破裂した。彼は片側の歯を全部なくした。
22歳のアムジャドはウエストバンクのジェニンの町で頭をぶち抜かれた。レントゲンで見ると頭蓋骨の後ろに銃弾が撃ち込まれている。両腕はぬいぐるみの人形みたいにくたっとしている。部屋は排泄物の臭いがした。
17歳のモハマッドは12月1日連日衝突が続くラマラの現場に近い姉の家の前で残骸を取り除いている間にイスラエルのスナイパーに2度撃たれた。2発目が左の臀部に撃ち込まれ脚の上下運動をコントロールする座骨神経に命中した。神経を元通りにするには移植が必要だと医師らは言う。
19歳のイサ・アブはラマダン3日目の朝ガザでイスラエルの戦車と鉢合わせした。彼が石を投げると左ふくらはぎに銃弾を食らう。彼は倒れている間にさらに6発撃ち込まれた。
23歳のマモウドは一触即発の危機にあるイスラエル入植地ガシュ・カティフのそばに住む。報復行動として彼らの家を破壊するため送られたイスラエル爆破隊に向けて投石しようと走り出したところを100メートル離れた戦車から撃たれた。「やつら僕らを撃つとそのまま家を破壊し続けた」
脚にギブスをはめたナセルは帰宅途中に撃たれた。高速度銃弾が命中して左足の骨を数カ所切断した彼は狼狽している。「自分をヒーローとは見なせないよ。石さえ投げていなかったんだから。ただ歩いていて撃たれたんだ」
医師のカウリーは最初のインティファーダにさかのぼり大勢負傷したパレスチナ人の手術をしてきた。でもこんなに多くの重傷者を見たのは初めてだった。彼が手を置くのは大量に輸血したマヘド青年、「この男には驚かされる。脚の切断、輸血、皮膚移植、死んでも不思議ない合併症をすっかり経験したあとも笑顔が消えないんだから」
マヘドは午後の祈りを終えて帰宅するとすぐに撃たれた。イスラエル軍の施設から100メートルの近隣地区にイスラエルの砲弾が落ち始めたので妻と娘を兄弟の家に移そうと決めてドアを出たところで命中した。彼はこれまで抗議に加わったことはなかった。
人を死に至らしめる武力行使の正当化は我が身の防衛と差し迫った死や重大な脅威に対峙する人々を防衛するのに警察や治安部隊が行動してるかどうかで決着をつけるに任されてる。イスラエル当局は敵の発砲の報復で撃っているとの釈明を固く守る。「パレスチナ人は10年前のように石を投げてるだけじゃなくデモの範囲内でライフル、旧ソ連の軽機関銃カラシニコフも使う」
そんな場合でも戦車や戦闘用ヘリからの高性能口径の射撃に励まされたイスラエル軍には屁でもない。イスラエルの新聞Ha'aretz に匿名でイスラエル治安部隊のスナイパーが述べている。「いつもパレスチナの射撃は哀れを誘う程度のもの。ほとんどが当たらずに途中で消える」
ニュースの見出しは2つの軍のあいだの衝突を説明しているが、そして暴力による脅しを止めなければならないのはパレスチナ人と、イスラエルと合衆国当局側からの要求を繰り返しているが、死者と負傷者のほぼ90%がパレスチナ人とイスラエルのアラブ人側にあった。衝突の4分の3でパレスチナ側の発砲がなかったことをイスラエル治安部隊の数字が示す。
14の病院の何ダースもの患者の中で発砲していた一人とモロトフカクテル(火炎瓶)を投げていた3人を除く全員が撃たれたとき石を投げてたか他の負傷者の救助に向かっていたかその場を通りかかっただけだった。
人権団体によれば揮発性爆弾も暴動鎮圧用装備でがっちり固めた兵士にはほとんど脅威になりえない。まして「石や火炎瓶が遮蔽物、小要塞、シールドやワイヤーの後ろに配置されるイスラエル警備部隊の生命を脅かしたとは言い難い」それに比べパレスチナ人は容易なターゲットだった。
24歳のシャディは戦車に向かって火炎瓶を投げた後、腹に3発食らった。アマン外科病院の彼のベッドの側にはパレスチナの旗が壁にはアラファトのポスターが貼ってある。どうやってヨルダンまで運ばれたか憶えていなかったがイスラエル兵が彼の写真を撮り救急車の中で殴ったのは憶えていた。インティファーダの間に負傷したのはこれが3度目だった。
31歳のアディは衝突で殺された男の葬儀の後についていく穏やかな抗議の最中に撃たれた。銃弾は彼の左足の骨を木っ端微塵にした。気絶する直前 アディは道路に飛び散る自分の脚の破片を見たと言った。
「敵を一掃したいのならまさに打って付けの作戦だ」とアムネスティ・インターナショナル実情調査チームに随行するUK
の元上級警察官ステファン・メイルズは言った。「彼らがしてるのは治安維持なんかではない」
非公式にイスラエル治安部隊の兵士と司令官らはイスラエルのジャーナリストに別のことを言っていた。「毎回重大な事件があるたび政治的駆け引きだと感じる。新聞に治安部隊に降りかかったあれやこれやが書かれてるときは兵士として当局がもっと撃たせておこうとしてるんだと了解する」あるスナイパーは12歳以上に見えさえすれば脅威となる態度を取るパレスチナ人を撃っても許されると新聞Ha'aretz
に語った。
パレスチナ人はオスロ合意の経緯に信頼を失っているのでもはや統治権、エルサレム、祖国に帰るためのパレスチナ人の権利という基本的争点を果たせるとは考えていない。パレスチナ人にとりますます「平和と安全確保の話し合い=イスラエルの占有権の継続」になってきている。最近の世論調査がパレスチナ人の3分の2は「目下の政治事情では」自爆テロを含め最も手荒な手段を支持することを示す。また70%がアルアクサインティファーダの継続を支持した。
病院のベッドに横たわる青年たちはしきりにまた石を拾いたがっているように見えた。
「なんらかの行動を起こす」とニューズウイーク誌に語った首相シャロンは7月20日海外在住のユダヤ人を対象に予備兵の募集を開始すると発表、ニューヨーク
、ロンドン、バンコクなど10万人以上のユダヤ人が住む世界9カ所の都市に事務所を開設した。
これは新たな「戦争が始まる」のメッセージだろうか。8月10日イスラエルはPLO
の事務所を閉鎖、オスロ合意は消滅した。
▲参考資料:VILLAGE VOICE Feb.21, 2001
この記事の調査はカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院の援助で行われアンマン在住の3人のジャーナリスト、エルサレムとウエストバンクの3人のリポートがこれに加わる。
●イスラエルへの非難が高いのはTV で悪人に映るからだと作戦変更を余儀なくされたイスラエル政府は頼みの綱アメリカのPR
会社ルーベンステイン&アソシエイツと契約を結んだ。北米BMW やコロンビア大学、NY ヤンキース、俳優、富豪の顧客を抱えるPR 会社の最初の提案は「実弾を使ってないことを世界に伝えるのに暴動鎮圧用のゴム弾を撃つ銃を紫かオレンジ色に塗る。銃撃戦の現場はすぐ掃除して血なまぐささを残さない。首相シャロンの目つきの鋭い警護の男を減らしイメージをソフトにする」である。しかしどちらかというと優しい弾薬のゴム弾も短い射程距離から撃てば致命的になりかねない。ジハド・マシャル医師はゴム弾は神経外科の悪夢だと言う。「患者が頭を動かすたびにゼリーの中で動くビー玉のようで打つ手がない」
参考資料:朝日新聞8/8, 2001
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