People's media
巨人フォックスにまさる一般大衆メディア


かつて人種別住み分けが国を分断していたアメリカで政治的住み分けが進んでいる。
ブッシュ大統領を称賛する保守・右派に多い共和党支持者と反ブッシュのリベラル層中心の民主党支持者は、どちらも異なる立場や意見との接触を避ける排他的傾向にあり、それぞれの気持ちを代弁するメディアとコミュニティに安息を見つけ、閉じこもる。両者は、まるで別の惑星に住んでいるとも言われる。だがこの分断は、人が異なった意見を述べ、理解し合うことが基本の民主主義の健全さを目減りさせるブッシュ政権の本質に根ざしている。分断させ、容赦なく敵対させることで、独善的に団結する保守・右派のエネルギーをこの政権はよりどころにしている。

911以降、残りの世界に対するアメリカの尊大なふるまいにぐんぐんと視聴率を上げるフォックスニュースの責任は大きい。ブッシュ政権を支える有力な宗教右派、キリスト教同盟の創始者ラルフ・リードはネバダ州の共和党大会で、「私が見るのはフォックスだけだ。フォックスとラッシュ・リンボーのラジオ番組で十分。みなさんもそうすべきだ」と演説した。
フォックスニュースを毎日視聴するのは共和党支持者が40%近くでうなぎ登りなのに対し、民主党支持者は20%でやや下降気味。全米に2千万人のリスナーがいるといわれる保守層に圧倒的人気を誇るパーソナリティ、ラッシュ・リンボーのほうは、バグダッド・アブグレイブ刑務所の虐待事件が全世界に波紋を広げるなか、それを大学のクラブの悪ふざけみたいなものと言って、米軍を擁護した。
「スカルアンドボーンズ(ブッシュもケリーも入会済み)の入会儀式と何ら違わらぬことなのに、そのことで国民の人生をだいなしにしようというのだ。愉快に過ごしたというだけで、兵士のじゃまをしようというのだ。兵士らは毎日狙撃されている。この兵士たちは愉快に過ごしてただけじゃないか、感情の発散ってやつだ。鬱憤は晴らさにゃならんと言うだろうが」(ラッシュ・リンボー・ショー、2004年5月4日のトークから抜粋)
ラッシュ・リンボーは、前日にはこうも言っている。「ところで、虐待の写真をよく見てごらん。私だけの考えかもしれんが、こんなのはマドンナとかブリトニー・スピアーズとかがステージでやってるのと同じ程度のものだろうが。こんなのは、米教育協会が承認すればいいことなんだ。承認済みのリンカーンセンターのステージでも、TV番組"セックスインザシティ"でも見ることができる類のものだって」

大物メディアは単にモノを売る企業に過ぎない。19世紀に泥棒大実業家が権力になったとき、民主主義の堕落を公然と非難した政治改革者ヘンリー・アダムスは当時のニュースメディアの怠慢について、「報道機関は、金銭によるシステムの雇われエージェントだ。利益が絡むところでウソをつくよりほかの目的では始動しない」と書いた。
ヘンリーが今日のメディア王について知ったら、どんな辛辣な言葉を浴びせるか。彼らは単に金銭による有力者連中のエージェントに雇われたのではなかった。エリートたちの権力と収益を永存させるため、新聞雑誌でウソをつく術ではよく訓練された、完全に組織化され、複合化された、有力者連中に彼らがなっている。

今は、真実や人の正当な利益より自己の利益に奉仕する、一握りの企業地盤がアメリカのマス購買者層のニュースと情報源のすべてを事実上管理する。GE ジェネラルエレクトリック社はNBC を所有する、ディズニーはABC を、ヴァイアコムはCBS を、ニューズコープはフォックスを、そしてタイムワーナーはCNN を所有する。この5社がTV ニュースで支配を確実にする。日刊紙1500のうち、独立しているのはわずか281紙。全世界に配布される毎日のニュースの25%を3社が管理する。

積極的かつ民主的な論調を求める国民全般のニーズに反するとき、彼ら自身のニーズの利益の一致がメディアの存在理由だと、このお高くとまった巨人たちはあからさまに豪語する。全米ラジオ局の三分の一に当たる1200局以上を所有する法人、クリアチャンネルのボス、ローリー・メイズは、「私たちはニュースと情報を提供する商売をやっているのではない。単に私たちの顧客の製品を売る商売をやっている」と考える。
欲得づくの病巣である一般企業の傲慢が、ここでもメディアの首領のエゴをふくらませ、毎日のニュースの供給で国民への説明責任の必要がない全く誤りのない神だと思わせる。タンパにフォックスの系列会社を持つ幹部は、「なにがニュースかは私たちが決める。私たちが報じることがニュースなのだ」と言った。

ニュースに法人組織の偏見を見つけても、寂しく思うことはない。昨年9月、アメリカ人の三分の二が、特別な関心事か、自己の利益に奉仕する法人の政治的日程がニュース報道に影響を与えると思うと世論調査員に述べている。ニュースソースにおけるこの法人の独占的支配を嘆き悲しむ他に、もっといい考えはないものか。
いいニュースだ。これはすでに始まっている。何年にも及び、苦痛に耐えられる何千という草の根の人たちがメディアのどの領域でも着々と、そして独創的に仕事を行ってきている。彼らの組合わさった努力の成果は、いま全米いたるところで新しいメディア勢力が栄えていることだ。その説得力は、恥ずかしげもなく進歩的で独立を貫き、多様で、分散しており、民主的なこと。全部ひっくるめて重要なのは、彼らが考慮に入れられる勢力だということ、公にされ、戦略的に配備され、故意に広げられる勢力だということだ。

元テキサス州農務長官のカウボーイ、ジム・ハイタワーは最近になってこの勢力のすごさを身をもって知った。きっかけは、国民の民主的パワーを強奪している金持ちの泥棒政治についてに加え、現に泥棒と戦っている、そして頻繁に彼らを閉口させている草の根のアメリカ人が大きくなるのを強く励ますことが核心の本、「Thieves in High Places (上層部の泥棒たち)」の発行だった。この本は不動のメディアがたいてい無視する民主的な直接行動主義の顛末を激励するものだ。
だがメディア権力の泥棒大実業家がこの反体制メッセージに喜んで応じることや、広める行動に走りそうもないのはわかりきっている。現に「トゥデイ」や「グッドモーニングアメリカ」など、TVのモーニングショーはどれも本について話すのを許さなかった。夜のニュースマガジンショーもしかり。ニューヨークタイムズやニューズウイークなどマスの購読者層の新聞、雑誌に書評はなかったし、全米公共ラジオとTVの公共放送でさえ、よそよそしい態度を見せた。
しかしそれでも愉快ことになった。この本がニューヨークタイムズを含め、全米のほぼどのベストセラーリストでもトップ10に躍り出たのだ。

大部分の人がそんなものがあることも知らない、チープな寄せ集めメディアネットワーク経由で、本はたちまちマスの購読者層の読者に達した。本について言葉を発するためにゲリラ戦のキャンペーンを組織化したせいで、ジム・ハイタワーはこのネットワークの寛容と強さに遭遇した。地域社会のラジオ局、より好ましい週刊新聞、自主独立の本屋、ウエブで活動中の組織、進歩的で障害をものともしない雑誌、草の根組織のウエブサイトと出版物、地元の団体、最近になって出現したTV反逆者と一緒に仕事することで、もし独自の寄せ集めメディアに強みがあるのを私たちが実感しさえすれば、つまるところ法人メディアの不毛の地にも進歩的な人たちの発言権があるというのがわかった。
この進歩的なメディア・パッチワークは個々にはどれも小さい。そして進歩的な人たちによって、つまらんものとあまりにも頻繁にバカにされる。だが、ひとつひとつを合計すれば私たちには多数の人々に届く広範囲にわたるネットワークの発表の場があるのだ。

この進歩的な発表の場にチャンネルを合わせる人々は広告主に価値を認められる累積数というだけでなく、たいてい彼らはわくわくするような行為を待ち受ける読者、リスナー、オンラインクリッカー、TV視聴者でもあるのだ。こういった構成要素が幾つかつながるとどういうことになるか、その実例を昨年私たちは目にした。 パウエル国務長官の長男である自由放任のバカ息子、マイケル・パウエルが先頭に立つFCC(ラジオ・TV・電信・電話・衛星通信などを監視する連邦通信委員会)が、事実上アメリカのどの都市においても、ひとつかふたつのメディア巨大複合企業にTV、ラジオ、新聞などの発表の場を支配するのを許すことになる法案の改正を強引に押しつけていた。
メディア所有権に規制がないと、どうしてもニュースソースの全面的な独占になる。法人のロビイストと政府の弁護士どもは互いに調子のよい法律用語をささやき合うため裏工作の場所でがんばっていた。
けれど今回は違った。FCCの裏工作の場所に気づいた幾つかの公共の利益を保護するための団体が、20万人の会員を引き込むため赤い照明弾を上げたCommon Cause といった草の根グループを動かして警戒体制をとらせた。次にはたくさんの地域社会に根ざした市民ラジオ局が放送紙面を国の全域に貼りつけ、FCCの規定のややこしい表現を簡単なスローガンに言い換える。彼らは連日、争点を叩きまくった。次は、目標とされる反応に必要だったメカニズムを、成長するこの草の根反対勢力にもたらした、ウエブで活動中のグループMoveOn.org の出番、そして17万通のE メールをワシントンに浴びせた。
結果は、昨年7月、FCCのメディア独占法を止めるべく共和党議員デイヴィッド・オベイが提出した修正案を下院が400対21で可欠。決め手となった400票は突然反対票を投じなければと決意した、まさにメディア大実業家から現金のいっぱい入ったバケツをもらっていた共和党はもちろん、民主党の議員の票だった。

戦いは終わってはいないが、メディア所有権規制という少数の人にしかわからない争点がこんな短時間に一般大衆の反抗という大草原の火事を燃え立たせることができたという事実は、私たちの自由になるパワーを立証するものだ。

ラジオ:
寝室、クルマ、風呂場と、いたるところにあるせいで、また映像は了解しても話の内容をそれほど理解しないTVに対し、人にはラジオが言ってることには耳を傾ける傾向があるせいでも、ラジオはとても民主的な小箱になりうるものだ。
悪いニュースは、ラジオ局がクリアチャンネルと数社のコングロマリットにしっかり買い占められてることだ。しかしながら、よいニュースはすこぶる重要な数百の局がまだ私たちの思いのままなこと、そして毎日何百万もの人々にしっかりした進歩的メッセージを発していることだ。
1993年以来、ジム・ハイタワーの2分間のラジオ解説が
週末を除く毎日放送されている。今では全米いたるところに加え、アラスカ、ハワイでも最大130の民間放送局と市民放送局で聞かれている。ウエブはもちろん、この「Armed Forces Radio 」を聞いてくれたまえ。他にもおもしろいのがある。エイミー・グッドマンの生き生きした「Democracy Now 」、「Working Assets Radio with Laura Flanders 」、「New Dimensions 」、「Latino USA 」、「Counterspin 」、「RadioNation 」、「ACORN Radio 」、「Alternative Radio with David Barsamian 」、「Media Matters with Bob McChesney 」、「The World 」と、進歩的な争点と洞察を毎日存分に発揮する豊富な全米と地元のブロードキャスターがいる。
法人のオーナーの偏見のせいで、民放ラジオは割るには固い頭ではあるが、デンヴァーのKNRC にはイーニッド・ゴールドステイン、マディソンのWTDY にはスライ・シルヴァースター、デトロイトのWJR にはミッチ・アルボムといった私たちの代弁者がいる。そしていまAir America は大胆にも、新興のネットワークから進歩的なトーク番組をもってきて一日17時間流している、そしてアル・フランケン、ジェニーン・ギャロファロ(コメディアン女優)、ランディ・ローズ、チャックD(ミュージシャン) 、レイチェル・マドーといった活動家のホストを放送する。この真新しい成金番組はすでに15都市で放送しており、ウエブで毎日数百万以上のリスナーを引きつけている。
それから私たち市民が所有する放送局がある。多くの人が1ワットの無意味なものと決め込むが、それはナンセンスだ。実際、バークレー、ニューヨーク、ロサンジェルス、ワシントンDC 、ヒューストンなど、パシフィカ・ネットワークの最も重要な5本柱のように、大都市の原動力、強力なブラスター爆弾もある。たとえば、ロスにあるパシフィカのKPFK は11万ワットで、サンディエゴからサンタバーバラまで届き、内陸(僻地)のサンベルナルディーノにまで及ぶ。同様に、タンパの独立市民放送局WMNF は7万ワットの秘蔵っ子、中部の州、ガルフコーストにあるサラソナからオーランドまで届く案配だ。
小さな町の市民放送でさえパンチを与えることができる。たとえばメイン州ブルーヒルにあるWERU はオーガスタの州都まで届くのは明白で、ペノブスコットベイエリア全体にとり大切な勢力盛り返しの契機となるもの(活力回復点)だ。同じようにオリンピアのKAOS 、ポートランドのKBOO 、ボルダーのKGNU 、などなど。ただチャンネルを合わせるだけではない。人々はこれらの放送局に期待する。誰もクリアチャンネルを信用しないという意味において、それらの局を信用する、そして受け取る情報に関して行動するつもりでいる。

WEB:
ジェファーソンやマディソンには想像もつかなかっただろうが、今日、愉快に取り組もうという民主的ツールが、www (ワールドワイドウエブ)である。 どの進歩的グループも機械化に反対する者でも、情報の宝庫や計画を練る連合を共有できて、会を催し、地元から地球全体へ大衆行動を動員できる、活発な相互に影響するウエブサイトを持っている。 ネットの増加は爆発的である。たとえば、隣の子供から有名な博学者まで、みんなが出すメールの数は一日に680億通で、ブログの数は一日に1000万。MoveOn.org やTrueMajority.org 、民主党の大統領候補から脱落したハワード・ディーンの選挙戦が、基金を増やしたり市民の意見で議会に電撃的攻撃をかけるばかりか、特に行動を起こすため人々を組織化することで、ウエブの驚異的潜在能力を見せつけてくれている。
ウエブは法人メディアを出し抜く手段を私たちに与えてくれる、そしてニューヨークタイムズが「印刷には不適当」とみなすニュースの、低予算、分散化させた私たちのネットワークを創り上げる手段を与えてくれる。 多数の専門のニュースサイトに加え、つまり中身の確かな進歩的集団のためのニュース事業ということになる、Alternet.org、TomPaine.com、Buzzflash.com 、CommonDreams.org のような「アグリゲイター(ひとつの集合体になる人たち)」がいる。 事実上の自分たちの新聞を作っている人たちがいる。iBrattleboro.com をチェックして確認してくれたまえ。1年以上のあいだ、このヴァーモントのウエブサイトは、町で起きてることについて読者をリポーターにさせてきた。誰でも寄稿できて、誰でも寄稿論文にコメントできる。1万2000人の町でiBrattleboroのヴァーチャルページは一年で26万人の閲覧者を得ている。

よりましなものがどっさり:
日刊紙を読んで落ち込むようなら、The Nation 、Mother Jones 、The Progressive 、In These Times 、American Prospect 、Ms 、Harper's 、The Progressive Populist といった血気盛んなジャーナルを越える
自分の「日刊ぺちゃくちゃ」新聞を出すことで気分を高揚させようじゃないか。
またUtne は毎月2000以上のよりましなメディア源から記事を集める。そしてインディペンデント・プレス・アソシエーション(indypress.org)とオルタナティヴ・プレス・センター(altpress.org )は、政治と文化の争点を想像できるかぎり報道する雑誌、ニュースレター、同人誌・会報が接近するのを許る。
企業独占の日刊紙が取り逃したり避けたりする進歩的な争点と出来事の詳細な報道を提供する、ひとつあるいは複数の独立した週刊新聞が君の町にあればしめたもの。オルタナティヴ・ウイークリーズ連合(aan.org )は、ひとまとめにして1700万人の読者に届く、地元の120の発表機関に君を接続させる。
私たち民主主義の活動的メディア群衆でも最も弱いメンバーのTVでさえ、やや自信を取り戻している。PBS の「ビル・モイヤーズとナウ」は新風のひと吹きだ(彼がリタイアーすると言ってるから番組がどこに向かうかは定かではないが)。そしてC- SPAN はカメラをクリックするだけですばらしい公益事業をずっとやり続けており、編集や編集者の意見を入れることなしに私たちに出来事を見せてくれる。ネットワークのニュースなんて忘れてしまって、重大な問題の解釈やそれへの取り組み方が的確な風刺もの、コメディチャンネルが放映するジョン・スチュワートの「ザ・デイリー・ショー」にすぐ行くことだ。 TVの世界で特に勢いづくのが、Free Speech TVや WorldLink TV を含む、反政府集団で、全部ひっくるめると2千万世帯に送信される。600チャンネルが受信できるケーブルアクセステレヴィジョンのおかげで、攻撃的なインディペンデント・メディア・センターのはもちろん、草の根レベルでも独自のTVを作っている。indymedia.org は特に抗議と行動の連続したなまの場面がみごとだ。メディア活動家たちが事態の真っ只中でウエブで動作するヴィデオカメラで撮影し、それが起きてるときにニュースを届ける。
最後に、面と向かってのネットワークのパワーを度外視するな。所定の日に数千人が、話を聞くため、学ぶため、論じ合い、互いに影響し合うため、戦略を練り、まとまるために、様々な規模のグループ分けで集合する。これらのフォーラムには全米の2200店舗の自主独立系書店が含まれる、そこはただの本の行商人ではなく、地域社会の会合の場であり情報の掲示板だ。(booksense.com で近所の書店が見つかる)
図書館、進歩的な語り手のシリーズ、ポットラックサパー(一皿ずつ持ち寄っての夕食会)、対話カフェ、ローリングサンダーのような進歩的なフェスティヴァルなども、どの町やどの地域でもほとんど毎日同然に行われる、このぞくぞくするようなハイタッチの至れり尽くせりの奉仕活動の一部だ。
昔むかしにママが、人もやってるからといって自分の悪事が正当化されるわけではないと私に説いたが、まもなく私は3人が左を向けば左が正当化されるのを理解した。
私たちの意見を締め出すために、適所に法人の利益が挿入されているメディア妨害に一度でも遭遇したことがあるなら、私たちはそういう類のストリートの分別を働かせるしかない。とにかくみんなが違うものを読めば健全になるというものだよ。

▲参考資料:commondreams.org 15 June 2004 by Jim Hightower
朝日新聞 15 June 2004