TIZIANO = TERZANI
反戦の手紙

1997年に名誉ある特派員部門賞を授与された著名なイタリア人ジャーナリスト、ティツィアーノ・テルツァーニはドイツのシュピーゲル誌の特派員として30年あまりアジアに住み、ベトナム戦争、カンボジア紛争、ソ連崩壊など、彼が証人となった主要な戦争や出来事を報道してきた。
彼のことを知ったのはイタリアの人口1111人のモントットーネ村から発信する飯田亮介さんのサイトだった。飯田亮介さんはイタリアで10万部以上が売れ、反響のあったティツィアーノ・テルツァーニ(以後TT )のやむにやまれず手紙という形で新聞に掲載した「Lettere contro la guerra(反戦の手紙) 」を読みファンレターを書く。するとすぐにTT から日本語に翻訳して広めてほしいと返事がきた。90年代にヒマラヤを望む地に移り住んだTT は、締め切りのない静かな隠遁生活を心から楽しんでいた。9.11とそれに続くブッシュ政権に同調する同胞のジャーナリストの怒りと憎しみのメッセージに触れるまでは。サイトにUP された「反戦の手紙」は彼が再び山を下りることになる出来事、9.11とそれに続くアメリカのアフガン空爆のせいで訪れたパキスタン、アフガニスタン、インドそしてイタリアで記した8通の手紙で成り立っている。

『アフガン空爆の知らせを受けて「山を下りる」ことにした。あのブッシュが「オサマを洞窟からあぶり出してやる!」と言ったとおり、私は居心地のよいヒマラヤの巣窟から引っぱり出されたのを認めざるを得なかった』

彼は1973年ル・モンド紙の記者と写真家と共に敵であったベトコンと話をするために南北を分断するラインを南ヴェトナム側から初めて超えたジャーナリストのひとりになる。同じようにニューヨークのツインタワーのひとつを爆破しようと試みたテロリストを理解したいがために1996年オサマ・ビン・ラディンの崇拝者と話すためジハード大学で2度も続けて取材することに成功する。彼はジャーナリストとして公式発表の事実の裏に隠された別の事実がないか見極めようと努める。戦争があれば一方の言い分だけでなく常にもう一方の道理も理解しようと努めてきた。そして今回はアフガンに足を運ぶことになり、合衆国を訪れることにもなる。

『私が見てきたのは、あくまで自分のことしか考えない偏狭で横柄なアメリカであり、自らの権力と経済的豊かさに思い上がり、世界の国々に対する理解も興味も持とうとしないアメリカだった。この国に蔓延する優越感と、アメリカ人は唯一最強でアメリカは最高の文明を持つ国だという国民の確信に、私は大きな衝撃を受けた。しかも、そこには自己に対する皮肉というものが全くなかった』
『アメリカも北朝鮮同様、何らかの洗脳の犠牲者であるように思えた』

認めても認めなくてもすべての人にとり特別な一日だった9.11 の大惨事をTT は最初、1つの素晴らしい機会ととらえた。それを目の当たりにした全世界が理解するはずだ。人類は覚醒するはずだ。国の関係や異なる宗教間の関係、人と自然の関係、人間同士の関係、そのすべてをもう一度考え直そうと人類は目覚めるはずだと。

『私はまたも勘違いをしていた。9.11 はすばらしい機会などではなかった!それは私たちひとり一人のなかに眠っていた獣をたたき起こし、けしかける機会だった』
『私が手紙を掲載するのは、1つの声を聞かせ、事実の別の側面を話し、議論を巻き起こしたいがためだ。そうすることで誰もが意識を新たにするように。また、今この瞬間にも頭から袋をかぶせられた上に鎖につながれたまま飛行機で故郷から20時間の距離を運ばれた捕虜たちが地の果てアメリカの植民地キューバのグアンタナモで「取り調べ」を受けていること、その間にも私たち反テロ同盟の戦略家たちが何処とも知れぬ国に対して新たな攻撃を始める準備をしていること、これら一連の事実を人々が見て見ぬふりをし続けるのをやめるように』

9.11 は「以前」の私たちの人生の最後の一日だった。

『9.11 以前、ツインタワーが倒壊する以前、新たな蛮行が始まる以前、私たちの自由が制限される以前、他者への極端な不寛容が蔓延する以前、捕虜と無実の一般市民が虐殺される以前、偽善的行為・順応主義・無関心またはそれより質の悪い貧乏な怒り・誤った形で再びもたらされたプライドなどが人々の間に蔓延する以前の最後の一日。さらなる愛と連帯と精神的価値、歓喜に向かって飛び続けていた人類の想像力が、さらなる憎しみと差別と物質的価値、苦しみに向けてハイジャックされる以前の最後の一日だった』

愛と連帯と精神的価値、歓喜でもって激励してくれるTT の「反戦の手紙」は、飯田亮介さんのおかげでこの1月に日本語版が出版される。また、ジャーナリズムについて述べたかったことを全部書いたという「In Asia 」の一部はサイトで読むことができます。必見!

▲飯田亮介訳「反戦の手紙」初稿より
●反戦の手紙:WAVE 出版 Jan. 2004 出版予定