DARKMAN :

湾岸戦争が始まる前の90年夏にアメリカで公開されるやいなやトップに躍り出たサム・ライミ監督の映画<ダークマン>は、ティム・バートン監督の<バットマン>に次ぐ暗いドラマ性を持った"闇のニュー・ヒーロー"だ。
しかしこれほど惨めで悲しいヒーローはいない。デ・パルマ監督の<ファントム・オブ・ザ・パラダイス>も顔と声とアイデンティティを失った"怪物の心の痛み"を持ったヒーローだったが、ダークマンは外面的に顔と両手を失うばかりか視床下部の神経を切断され「痛み」という感覚自体を失った。その結果起きる孤独感と疎外感、感情の爆発がもたらす通常の6倍ものアドレナリンの分泌が激しい怒りと復讐心を燃え立たせる。
こんな怪物になる前は開発中の人工皮膚の研究に没頭する科学者だったダークマン、化学薬品と爆発によって損傷した顔と手にバイオスキンを着けて他の誰にでもなり代わることはできた。ただし光と紫外線に弱いため今の段階では99分が彼の活動の限界だった。
ハイテクノロジーを駆使して現れるダークマンは99分他人を演じる他は完璧な孤独、寂れた遊園地の見せ物小屋にいる怪物となんら変わらない。顔も痛みも失った人間の内面の絶望感は屋根の上の灰色の魔物の石の像と並び「おれは怪物だ」と嘆くシーンや、雨の夜のダンボールが風に飛ばされた路地裏でボロボロの包帯を顔に巻いたダークマンが虚空を見つめている印象的なシーンに読みとれた。
やさしさと恐ろしさと、超人的なパワーで次々バイオスキンのギミックを繰り出し邪悪な敵をやっつける、"良心を鍛えた"ニュー・ヒーローがアメリカで大ヒットを飛ばしたことに注目したい。

▲TAMA- 5 掲載、1991
●サム・ライミ監督作品:1983年<死霊のはらわた>はスプラッターという新ジャンルを創り出し、一大センセーションを巻き起こしたカルト映画の名作。 1985年<XYZ マーダーズ>コメディホラーの傑作、1987年<死霊のはらわた>