ARABISM :
ニュースの報道はアメリカは正義、イラクは悪という単純な構図でしかないが、実際には西欧対中東、中東諸国内での対立といった図式がもっと複雑に絡み合っているのではないか。
イラクはアラブ民族主義とアラブ統一を旗印にその達成までの過渡期を革命指導評議会が権力を独占して"イラク地域"を支配する国家だ。アラブ民族主義とは60年代のエジプトがそうであったように共和革命を起こしてアラブ統一に進むという思想である。80年代には"イスラム革命の輸出"を唱えるイランの脅威が強調され過ぎていたが、それ以前には湾岸地域における脅威とはイラクのことだった。
イラクもクウェートも含め今日の中東諸国は植民地体制とその後の後始末の結果として生まれている。たとえばアラブ人をイラク人、クウェート人と分けるものは何だったのか?同じアラブ人でも経済的理由だけで見下され、我慢の生活を強いられる。そうした人々の鬱積した屈辱感がイラクを支持するアラブ人の感情につながるのは容易に推測できる。
イスラエル占領下のパレスチナ系住民のあいだでは新生児にサダム・フセインと名付けるのが流行している。フセインをアラブの立派な愛国者として評価し自分たちをイスラエルから解放してパレスチナ国家を樹立する強力な指導者はフセインしかいないと思っているからだ。
東西融合が実現したとき、英国の首相サッチャーは即座に言った「次はアラブ」と。
▲TAMA- 3 掲載、1990