HUNTER S. THOMPSON :

ローリングストーン誌の国内問題担当デスクとして今なお重要な文化的影響力を持つ風変わりなゴンゾジャーナリスト(ならず者ジャーナリズムの旗手)ハンター・トンプソンが昨年(90年)4月重罪で告訴された。容疑は性的暴行並びにドラッグと爆発物不法所持でへたをすると最高50年の刑に処せられる。
トンプソンは過去24年間コロラド州アスペンの5マイルほど北西で騒々しい隠遁生活を送っていた。そこに彼のファンだという一人の女性の訪問を受け彼女の訴えから6人の警察官の11時間にも及ぶ家宅捜査が行われる。その成果はコカイン0.09 グラム(「なめろって言われても無理な量だぜ」)、ヴァリウム3錠、LSD 、60年代にヘイトアシュベリーで購入した水煙管、アンティークのガトリング銃、ダイナマイト4本が押収されて5つの重罪と3つの軽罪で検挙される。
アスペンはこの25年ですっかり成長して地価も高騰した。60年代にハッピーでのんきなアスペンの気風を作ったフラワーチルドレンは70年代には百万長者になり、80年代にはもっと上手の億万長者に取って代わられる。金と観光の時代が到来するとアスペンの保守的な地方検事らはドラッグ弾圧に全力を注ぐようになりトンプソンのような存在を抹殺しにかかった。
トンプソンの弁護士は「作家のプライヴァシーを11時間に渡り侵害して家中嗅ぎ回るという行為が許されていいものかどうかが事件の争点で憲法の修正第4条の真価が問われるところだ」と言った。ニクソン・レーガン・ブッシュ時代の最高裁は不合理な捜索と押収を禁ずる修正第4条をほとんど骨抜き同然にしてしまったと怒るトンプソンが「時代にはまらず」に「権力の罠にはめられた」ということだ。7月に容疑は証拠不十分で却下されるが、トンプソンの友人らは事件が起きる2ヶ月以上前からトンプソンがFBI 捜査官の監視下に置かれていた証拠をつかんだと言う。それに事件の捜査官が地方検事のオフィスで行われたトンプソンと弁護士の会話を密かに録音していた事実も明らかになる。
「やつらはとにかく俺のしっぽを捕まえようとした。ドラッグ戦争が冷戦に代わるバケモノになってしまったんだ。ABC の世論調査の結果はぞっとするものだったぜ。ドラッグを追放するためだったら無作為の家宅捜査もよしとするのが52%もいるんだからな。83%の人間が家族の一員だろうとドラッグにかかわった者は警察に渡すべきだなんて言ってる。これじゃー1933年のドイツと一緒だ。音楽がうるさいからってあいつはきっとドラッグをやってるに違いないと警察にたれ込むやつがいないとも限らない。有罪なのはどっちだい」
「これはライフスタイルの逮捕!だよ」 ハンターS. トンプソン擁護基金が余った場合には誰であれ同じような情況に追い込まれた人たちに提供される。「罠による犯罪の立証は認めない」とするアメリカの正義にアメリカよ、お前を見直したぜ。

▲TAMA- 4 掲載、1991(トンプソンの詳細記事はTAMA- 23 に掲載 、HOT 1998)
●ラスベガスをやっつけろ:ハンターS. トンプソン著 筑摩書房  
アメリカンドリームの終焉:ハンターS. トンプソン著 講談社