CAETANO VELOSO :

美とは痙攣的なもの...... カエターノ・ヴェローゾはブラジルのポピュラーミュージックのリーダーのひとりだ。 60年代、世界のポピュラーミュージックが大きく変化した時代にカウンターカルチャーの象徴としてのロックムーヴメントにいち早く反応したのがブラジル北東部の港町バイーアの4人組、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、カエターノ・ヴェローゾ、マリア・ベターニア(カエターノの妹)だった。 ジョアン・ジルベルトにショックを受けたカエターノは州都サルヴァドールの大学でジルベルト・ジルに出会いボサ・ノヴァ、バイーアのアフロブラジル音楽にロックの要素を取り入れた「トロピカリズモ(熱帯主義)」運動を起こす。そして音楽のスタイルばかりかメッセージ性の強い歌詞やファッションなども含めブラジルの文化に新風を吹き込み若者から熱狂的な支持を集めた。脅威をおぼえたブラジルの軍事政権はその活動を妨害して様々な弾圧を加える。リーダー的な存在のカエターノとジルは逮捕拘留され1968〜72年までロンドンに亡命した。
「私たちブラジル人若者には4人のカリスマがいる。カエターノとミルトン・ナシメント、シコ・ブアルキそしてジル。彼らの声・詩・メロディがブラジル人を作っている。カエターノは私たちの知性。ミルトンはこころ。シコは内蔵でジルは生殖器」これはあるブラジル人の言葉だ。
アルバム<エストランジェイロ(異邦人)>をプロデュースしたアート・リンゼイは、
1956〜70年までの少年時代をバイーアより北のペルナンブーコ州で過ごしてトロピカリズモを体験する。「アメリカのヒッピームーヴメントよりずっと知的でずっとポップだった。カエターノからはとても大きな影響を受けたよ」
アルバム<エストランジェイロ>の曲、「その他のロマンティスト」の歌詞にはヘクトル・バベンコの映画<ピショット>やヴェンダーズの<ベルリン・天使の詩>がオーヴァーラップされている。彼を紹介したデイヴィッド・バーンによく似た知性と鋭さを感じさせるカエターノは90年8月7日、日本で48歳の誕生日を迎えた。

▲TAMA- 3 掲載、1990