BENICIO DEL TORO :

映画<ラスベガスをやっつけろ>であの太鼓腹を見たときには共演者ジョニー・デップより若いことが信じられないと思ったものだ。今回のアカデミー授賞式で助演男優賞を獲得して壇上に駆け登ったとき彼の若さが実感できた。
映画<トラフィック>の麻薬カルテルを追うティファナの警官役、もっぱらスパニッシュをしゃべるじっと抑えた演技でベニチオ・デル・トロのクールさの度合いがまた上がった。イギリスの監督ガイ・リッチの巨大なダイヤ強奪計画に素手で闘う嫌われ者のパイキーことジプシーボクサーが絡む新作<スナッチ>やショーン・ペーンのスリラー<The Pledge >でも異彩を放つ34歳のデル・トロがゴールデングローブ賞に続いてアカデミーの助演男優賞を獲得した演技は<ユージュアル・サスペクト>や<ラスベガス>のドクターゴンゾの演技で一発勝負に出た転機で名を挙げた俳優のもにしては以外にも控えめな「ピカソで言ったら青の時代」(彼自身の表現)みたいなミニマルパフォーマンスだった。
初期のデル・トロの役柄、道化のような芝居じみた言動のなごりはペンシルヴァニアの田舎で過ごした思春期の運動選手のそれに見られた。プエルトリコの裕福な弁護士一家(父は今も健在だが母は彼が9歳のとき亡くなる)に生まれたデル・トロは12歳で合衆国の寄宿学校に追いやられる。彼が最初に恋をしたのがバスケットボール、プエルトリコを離れる直前に彼はパンアメリカンゲームの決勝戦、すぐきれるボビー・ナイト率いる全米チームの試合を父親と観戦しに行った。「全米チームが勝った後ボビー・ナイトがみんなを指ではじき飛ばした」と言ってデル・トロが大口を開けて馬鹿笑いする。「彼はばかだが僕がほんとに好きなところが彼にはある、完全か無(ゼロ)かのどちらかで中間がないんだ」これはデル・トロのスクリーン上のスタイルの適切な描写だったが彼はまずペンシルヴァニアのバスケットコートでこれの実地を試みる。「僕のディフェンスは最低だったよ。パスなんか見てない、人のいないところで妙技を披露するのが心底好きだった」チームメイトは彼のことをベニチオ・デル・ターンオーヴァーと呼んだ。
陰で妙技を披露しながら禅のクールな霊気に身を落ち着けていく彼はサーファーになろうと決意してカリフォルニアのサンディエゴ大学に進む。サーファーをほったらかしにしてロスのステラ・アドラー演劇学校で磨き上げた彼の演技は露骨なほどの猛烈さによく考え抜かれたクールさの絶妙なブレンドだ。
映画<トラフィック>で演じる人物描写を完璧にするためにデル・トロは実生活の国境警備の警官と生活を共にした。 演技に対するアプローチと同じくらいデル・トロは自分の情動には注意を怠らない。彼にクールさを教えたのは「読んだのを憶えてるくらい最高の本」と言う彼の少年時代のヒーロー、ニューヨークニックスの伝説のバスケットボールプレイヤー、クライド・フレージャーが書いた本、<Rockin' Steady >だそうだ。

●参考資料:NEWSWEEK February 19, 2001