WHITE MOUNTAIN :

アリゾナのホワイトマウンテンアパッチ保護区の恵まれないスクールキッズにとりただのスポーツだったバスケットボールがNBA スパースター、カリーム・アブドゥル・ジャバーがコーチになるや自由を手にする唯一の機会になる。
ジャバーはそのたぐいまれな才能と優れた功績を認められ栄誉の殿堂入りを果たす伝説の人物。20年に及ぶキャリアのなかでLA レイカーズを5度優勝に導き強力なジョーダンより得点を上げて世界一の得点王に輝いた。
その間ジャバーはある論議を呼ぶ選択のせいで評判になる。イスラムに入れ込み名前を変える。アメリカの人種差別に抗議して68年のオリンピックをボイコットする。しかし彼は昨年、見方によってはそれよりもっと思い切ったことをした。低い報酬でアリゾナのインディアン保護区のアシスタントコーチに雇われたのだ。
ジャバーは4年前、自分で書いたバッファローソールジャーについての本{Black Profiles In Courage }のリサーチをしていてホワイトマウンテンアパッチ保護区を知るようになる。バッファローソールジャーとは南北戦争後、白人入植者からインディアンを守ったUS 騎兵隊のアフリカ系アメリカ人のことで、彼のあこがれでもあった。
ホワイトリヴァー大峡谷に入るとそこは別世界。強烈な独自のパーソナリティを備えた土地と歴史によって固く結ばれた本物のコミュニティだ。目下失業率が60%、その家族の90%が社会福祉の施しによる避難所暮らしという政府に無視された居留地特有の剥奪の風潮にもかかわらず、アパッチ族はホワイトリヴァーを離れたいとも思わずに弾圧と世間の無知に直面するなか先祖伝来の遺産をなんとか守り通そうともがいていた。
アパッチ族の娯楽のメインはバスケットボール。なんと言ってもそれを発明した当人なのだから精通してるに決まっている。ほぼ全部の家になんとか形になる程度のフープがあるほど町はそれに取り憑かれていた。少年にとり高校のチーム、アルチェサイ・ファルコンまで到達するのが人生のハイライト。学校以上の機会などめったにない彼らに残されるのは貧困暮らしを選ぶかアメリカ軍(政府は兵役の返礼に大学の費用を払う)を選ぶかで、これまでにそれをやり遂げてフェニックスの大学に進んだのはひとりだけだった。
ジャバーみたいな人物がこんなホワイトリヴァーくんだりまでアパッチ族の子を助けるためにやって来る?住人はもちろん、モルモン教徒が優勢を占めるセントジョーンズ高校のバスケットチーム、レッドスキンズは不思議でしかたなかった。そしてやっかみも手伝いカナダで捕まったときの社会奉仕で来てると噂した。偏頭痛の医療目的とわかり500ドルで無罪放免になったものの97年にジャバーはトロント空港でわずかな量のマリファナを麻薬犬に嗅ぎつけられて捕まった。残念ながらファルコンは宿敵レッドスキンズとのアウェイゲームには破れる。ジャバーの助力にもかかわらず今年ファルコンは州優勝を逃した。でも来年はジャバーがコーチとして戻るかもしれない。
「わたしの出身地ハーレムはここ同様恵まれない環境にある。それでもわたしは選手として成功したし大学の資格を取ることができた。つまりどこの出身だろうが<できる>ってことの証拠がこのわたしだ」
来年はチームの卒業生が数人大学に進学する。ひとりはアイビーリーグの可能性もある。それになによりジャバーは町の保存と発展に尽くす積極的行動にとり確実な成果となるホワイトリヴァーに注目をもたらした。

▲参考資料:i- D May 1999 (TAMA- 25 掲載、1999 CHILL )