NEW YORKER:
5月4日放送CNN の番組ラリーキングライヴで、アブグレイブ刑務所で撮影された写真をめぐり交わされた会話の中で、コリン・パウエル国務長官がイラク人捕虜虐待にソンミ村虐殺を連想したのは興味深い。現にふたつの事件には似通った点がある。
68年ヴェトナムで起きた500人以上の無抵抗の村民を虐殺した事件と今回のイラクの事件でパウエルの立場は変わらない。ソンミ村虐殺の隠蔽工作の一端を担ったパウエルの発言は「少数の腐った卵」によるものとする主張に基づいている。
もっと注目すべきなのは、アブグレイブ刑務所の虐待(拷問)をスクープして、戦争犯罪という問題を国民に語るよう仕向けたのが、1969年という暗い年にも同じことをやったシーモア・ハーシュ。ソンミ村大虐殺でピューリッツアを受賞した著名なジャーナリストだということ。
この事件を最初に取り上げたのがオンライン版「ニューヨーカー」。ハーシュの記事が「ニューヨーカー」誌に載るまでは、マイヤーズ統合参謀本部議長の要請で虐待の報告は差し止められていた。
このようなスクープを報じることができたのも「ニューヨーカー」誌という媒体の性質によるところが大きい。「ニューヨーカー」はひたすら利益を追うのとは違い、ジャーナリズムのロマンと国民の利益に適う公共への奉仕を大切にする雑誌だからだ。ピート・ハミルや諷刺の効いたしゃれたコラムのイメージが強い雑誌だが、全ページを使って原爆による広島の惨禍を報じた「ヒロシマ」で全米誌の認知を得た経緯があり、ベトナム反戦を口にした最初の雑誌でもある。
最後に、どちらの事件もそれが明るみに出たきっかけは、69年にはロン・ライデンアワー、そして今回はジョー・ダービーによる米兵の内部告発だった。当時、撮影した虐殺現場の写真を従軍カメラマンが地元に持ち帰り、市民団体に見せても、誰も動揺しなかった。アメリカ人が「こんなことをするはずがない」と誰も信じなかったからだ。
▲参考資料:TomDispatch 11 May 2004
ニューヨーカーの時代:常磐新平著、白水社
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