CHEMICAL COUP D'ETAT :

4月21日アメリカは「化学クーデター」に成功した。
化学兵器の開発製造保管施設の査察と兵器の破棄を監視するOPCW 化学兵器禁止機関のような国際機関のトップは任務遂行に必要な独立性と自由を保障するために解任が禁止されてきた。どんな大国だろうと加盟国からの脅しを受けたりその言いなりになってはならず、職を失うのは選挙のときだけだった。
ところが一方的外交を進めるブッシュ政権は、異例の功績により最初の任期満了前の2000年に加盟国の満場一致で再選された仕事熱心なブラジル人外交官ジョゼ・ブスターニ事務局長を前例のない事務局長降ろしの特別会合を召集して解任に追いやり、60年に及ぶ多国間交渉のシステムを転覆しようとした。ブスターニの罪はイラクを説得して化学兵器禁止条約に加盟させようとしたこと。アメリカが解決を望んでいない問題に解決策を提案したためで、共和党政権がなんとしてもやりたいイラクに対する先制攻撃の論拠がなくなることだった。
今年1月国務省がいきなりブラジル政府にブスターニの罷免を要求した理由に「偏っている」というのがあった。この非難はOPCW がまさに偏っていないことを示している。米国の施設を調査するときも他の国と変わりない厳格さで行ったからだ。アメリカはまるでイラクのように自国の利害に反するとみなす国からの査察官受け入れを拒否し、入国を認めた査察官には見てよい所とよくない所を指図した。「最初から色々な困難に遭遇した」とブスターニは語る。
「OPCW の査察官が米国内で調査するのを承知しなかった。化学工場内に入ることも認められないことが多かった。それが平和目的のものかを検証することはできない。研究所以外でのサンプルの分析は不可能に近かったので結果が歪められていない保証は全くなかった。査察のたびに米国はゲームのルールを変えようとした」
このクーデターが成功すると一国支配がまかり通り国際協力の原則に打撃になるばかりか世界がまた一歩戦争に近づくことになると、国のトップに反対を働きかける緊急の署名メールが世界中を飛び交った。立案者はミュージシャンのブライアン・イーノ。ピーター・ガブリエル、アニー・レノックス、レディオヘッドのトム・ヨークなど多数の文化人がこれに名前を連ねた。カギを握るイギリスが賛成にまわり米国、日本などの主導による解任動議は賛成48、反対7、フランスを含む棄権43で可決される。
ホワイトハウスが次に狙いをつけるのは国連人権高等弁務官メアリー・ロビンソン(すでに辞任を表明)、国際監視検証査察委員会ブリスク委員長、ラーセン中東和平特別調整官、パレスチナ難民救済事業機関ペーター・ハンセン事務局長、アナン事務総長の名前すら挙がっていた。

▲参考資料:Le Monde diplomatique July 2002 guardian.co.uk 4/16,2002
●TAMA-32掲載、FALL 2002