AMEN.:

ギリシャで実際に起きた政治絡みの謀殺疑惑がテーマの「Z 」や82年カンヌ・グランプリを受賞したチリの独裁政権がテーマの「ミッシング」など骨太の社会派の巨匠として知られるギリシャ生まれのフランス人監督コスタ・ガブラスの新作「アーメン」はそのキャリアの中でも最も物議を醸す作品となった。
教会の偽善と欺瞞を鋭く告発する内容もそうだが赤い十字架とナチスの象徴ハーケンクロイツ(鉤十字)をダブらせたデザインのポスターはフランス国内の原理主義的なカトリック団体がポスターの掲示を禁止にする裁判を起こすほどの論議を巻き起こす。
映画はユダヤ人虐殺に使う毒ガス調達の仕事をしながらもそれを妨害するサボタージュ活動を試み、終戦直後に獄中で収容所の実態を告発する「ゲルシュタイン・リポート」を書いた実在の人物、ナチス親衛隊将校クルト・ゲルシュタインとベルリン駐在の修道士リカルドが虐殺阻止を訴えるが法王ピオ12世は事実を知りながら沈黙を続ける。
「ホロコーストに対するバチカンの沈黙と無関心はすでに歴史的に証明された事実。私が描きたかったのは現代社会でもそうした沈黙と無関心が蔓延しているということで法王の沈黙はそのメタファーに過ぎない」と監督は語った。「法王の権威は人間の正義に取り組んでこそ正当化される。悲劇の存在を知りながら法王が沈黙したのは間違いだったと確信している。非キリスト教徒は救う価値がないとの考え、ヒットラーとの諍いを起こさないことだけに心を砕いた当時の法王の立場は宗教的というより政治的だ」
コスタ・ガブラスは「映画はアートであり、人間や社会が倫理や道徳に背いたときそれを指摘するのが役目」と考える。2000 年3月ローマ法王ヨハネ・パウロ2世はバチカンで特別ミサを行い、ユダヤ人に対して犯した罪を含む過去2千年の教会の過ちを認めた。                                             
▲参考資料:Mainichi INTERACTIVE 9/2,2002 AERA 7/22,2002

●TAMA-32掲載、FALL 2002