INDIES :

アメリカの政治にはなにが欠けているのか? この国の将来に具体的に関わっていこうとするとき、政党の在り方や進め方についていけなくなる人が増えている。政党にうんざりしてるのはなにもアメリカ国民に限ったことじゃなかったが。
1992年の大統領選のキャンペーン開始時にこれまでにないホットな動きが既成の政治秩序外から起きようとしていた。それは環境や市民の参政権拡大や消費者の権利など、政府が扱いかねる問題を争点に消費者運動のリーダー、ラルフ・ネーダーを大統領選に出馬させようという真剣な働きかけだった。
共産主義の脅威が失せた今、ネーダーの立候補は運動の矛先を企業権力と議会内部の企業の手先に向かわせようとするものだ。 ネーダーの選挙活動は一見、ジェシー・ジャクソンが4年前に形成した連帯ムーヴメントに似ていたが、それよりはるかに広い基盤を持ち、二大政党への投票を拒否したり、たいてい棄権する数百万の無所属票を集めるものとなる。それに過去10年に出現した多数の市民行動ネットワークをこれまでの政党に取って代わる新しい政治組織に変えようと狙っていた。
なにより選挙者名簿の一番上にラルフ・ネーダーの名を置くことは既成の政治に反対することであって無為無策の議会に真っ向から対立することだった。改革者に導かれるアウトサイダーの選挙戦ということになり、世界的な視野を持つ人物を国内政治の新しいやり方に向かわせるものだった。
で、ラルフ・ネーダー本人はどうなのか?
「強力で知識豊かで活動的な市民の基盤作りがあらゆる政治活動の目標になるべきだ。この方法によって私たちは4年ごとに開かれる似たり寄ったりの政策の見せ物を超越することができる」、
それで?「私はまだ立候補を宣言するつもりはない」でも、その動きをストップさせるつもりもない?その通り。
無所属候補として大統領選に出ることに非常に肯定的なラルフ・ネーダーだったが、大きな市民組織に依存することになる。市民グループは一般的に公民権を拡大して政治活動に新しい人たちを参加させることで一致している。ネーダー自身の関心から生まれた700万から800万世帯が関わるクリーンウォーター・アクション運動、30州にある学生主体のパブリック・インタレスト・リサーチグループ。それに32州で健康問題や毒物汚染、省エネに取り組む300万のメンバーを抱えるシチズン・アクションと全米に250万人の会員がいるグリンピース。
92年には間に合わないかもしれないが、政府が気づいていない(あるいは主流メディアが読めていない)政治意識にゆっくりとした構造の変化があるのは確か。近いうちに疎外感や怒りや体制への幻滅が既成のものを吹き飛ばす日がきっと来るに違いない。

●TAMA- 7 掲載、FALL 1991