BCCI :

麻薬、武器密輸、殺人、レイプ、誘拐、脅迫と地球上のありとあらゆる犯罪を遂行する裏組織「ブラック・ネットワーク」を持ち、政府高官への賄賂から不正資金のマネーロンダリング、テロ活動への関与、そして73ヶ国で50億ドルにのぼる預金詐欺という桁外れの国際スキャンダルを演じたBCCI (バンク・オブ・クレジット& コマース・インターナショナル)は、パキスタンの実業家アガ・ハッサン・アベディが1972年に設立したイスラム社会初の銀行だ。疑惑隠しの中央にいるCIA 内部では「詐欺師と犯罪人の国際銀行(BCCI )」と呼ばれていた。
最も目を引く非合法組織「ブラック・ネットワーク」はパキスタンのカラチ支店に直結しているといわれ、構成員1500人は心理学や電子工学をはじめ武器や盗聴の技術などスパイ要員としての特殊訓練を受けている。それは銀行というイメージからはほど遠く、秘密情報機関またはマフィアによく似ていた。 「西欧の豊かさと第三世界の貧困の間を橋渡しする事業」と野心家のアベディが豪語する多国籍銀行が犯罪と結びつく背景にはソ連のアフガニスタン侵攻が深く関係していた。反政府ゲリラを支援してパキスタンを舞台にゲリラ組織に武器供給することで深く関与したアメリカのCIA にとりBCCI の協力は不可欠となり、本来、銀行業務とは無縁のはずの裏組織が誕生することになる。そしてアメリカ及び同盟国の情報当局が国際テロ組織を追う上で BCCI との関係が大いに役立つものとなり、「手を汚すだけの価値は十分にある」ということで86年のCIA の機密メモは「灰色だが、手を出すな」のメッセージを暗に伝えるものとなった。
BCCI の顧客リストにはイラクのフセイン、パナマのノリエガ、ニカラグアのオルテガ、そして武器商人アドナン・カショギや故マルコス・フィリピン大統領などがいる。 スキャンダルは文字通り世界を駆けめぐり、経済破綻に追い込まれたBCCI 東京支店の預金残高は537億円(91年3月)と最も多かった。アメリカ司法局は事態をここまで悪化させた民主党の大物クラーク・クリフォードへの疑惑やCIA に対する根強い疑問を残したまま、これ以上の波及を恐れ1500万ドルという罰金の司法取引で幕を引く。

●TAMA- 7 掲載、FALL 1991