SENSE OF PLACE :

先住民の文化は地球を生き物とみなし、大地の女神ガイアに結びつける女性的存在ととらえた。私たちは普通、生命世界を互いのコミュニケーションなど存在しない無秩序な寄り合い所帯ととらえがちだが、ガイア説は違った。空中、地表、地中に宿る全生命によって構成される地球の皮膚としての生命圏が大気組成を積極的に調節していると考える。私というひとりの人間がガイアの肺の壁を構成するひとつの細胞だと想像してみるといい。と言っても、ガイアを本当に知るには自然との同調が不可欠だ。庭造りやハーブ治療の意味はそこにあった。
意識変化の必要性を唱え、人類の未来に警鐘を鳴らす哲学者であり民族薬理学者のテレンス・マッケナは、19世紀の主導イメージとしての蒸気機関車、20世紀後半を支配する心理的・社会的モデルとしてのコンピュータのように、21世紀の生活に植物を組織化モデルとして採用することを提唱した。そして男性の暴力性と侵略性を特徴とするピラミッド型階層社会で常に奪い、利用するばかりのわが種族は、私たちを支えてくれる土地に根づくこと、そしてそれを養い育むことを早急に学ぶ必要があると提唱する。
一般に農薬や化学肥料を使わないのが有機農業とされているが、本質は土作りにあった。土から持ち出したものはすべて土に返すという大原則があり、長期的展望を持った有機農園家は植物、家庭、国、そして地球の繁栄を目指して土壌を養う。
そもそも土壌の破壊は過去200年にわたるアメリカ型近代農業の宿命とも言える。そこには最初から根深い土壌の軽視があった。インディアンと原生自然の壊滅を正当化したようにアメリカ人は意欲的に森林を伐採し、何千年もかけて土壌に貯えられたもののわずか50年で流出する栄養分を石油・石炭の合成添加物で埋め合わせて農業を毒まみれの仕事に一変させた。
土壌作りにかける熱心さで中国人の右に出る者はいない。彼らは世界一総合的な堆肥作りとマルチングの体系によって人糞を含む有機廃棄物を土壌に返す。場所によっては5千年以上に及び休みなく作物を生産し続けてきた土地もある。そして忘れてならないのが、化学物質と大型農機に頼る近代アメリカ農業より単位面積当たりの収穫高が9倍も大きいことだ。
人口の8割が積極的に食糧生産にかかわる中国とは違い、農業者人口がますます減少するアメリカや日本では食卓に届ける流通システムがますます複雑化して私たちの日常生活からかけ離れるばかりだ。このような方向での進歩は「場の感覚」の否定につながり、そのシステムに参加することで私たちと地球の健康との直接的つながりをうち消している。
こうしてみると、ほとんどの農業が地球に対する戦争行為に他ならない。おそらくは砂漠化の主因だろうし、地球の自己治癒プロセスにとっての障害だ。
ハイテク農業がガイアに負わせた深傷を癒すには「場の感覚」を回復するしかない。多分過去十数年のどこかで、ついに地球が人間の消費に追いつけなくなる限界点がきていた。その瞬間は誰にも気づかれずに通り過ぎ、ニュースにもならなかった。その結果に対面するのは未来の世代だ。

▲「地球の庭を耕すと」ジム・ノルマン:工作舎
●TAMA- 22掲載、FALL 1997