CNN:

「CNN (ケーブルニュースネットワーク)体験」はジャーナリストだけではない。サウジアラビアのファハド国王は寝つかれないとCNN のチャンネルをまわす。イギリスのサッチャーもフランスのミッテランも、カダフィもローマ法王パウロ二世も、ホアン・カルロス国王もゴルバチョフも、大事件が起きたときにはCNN を見る。そしてフセインもだ。
昨年(1990年)6月に10年目を迎えたニュース専門局CNN を例えれば、「世界の通信装置」もしくは「TV 鎮静剤」か。創設者テッド・ターナーはマーシャル・マクルーハンが使った例え、「グローバル・ヴィレッジ」が気に入っている。視聴所帯数はアメリカ国内でおよそ5千4百万。それ以外では7百万。世界の半分をカヴァーするソ連の衛星を使い始める1988年にはシベリア、グリーンランド、北極を除く残りの全世界で見られるようになった。
CNN の登場は80年代のマスコミ界最大の出来事だった。かつてBBC がラジオでやったことをTV で成し遂げるCNN は、アメリカの政治・ビジネス・外交までも変える。87年の株価の大暴落後には世界中の銀行や証券会社がCNN を見ようとパラボラアンテナを取りつけた。
1985年、ベイルートでのハイジャック事件をノンストップでライヴ放送。86年にはスペースシャトル"チャレンジャー"の爆発現場をとらえて大スクープに。また89年、天安門広場での生々しい映像を中国政府に中断されるまで流し続けて世界を釘づけにする。そして今回、ワシントンの国防総省はイラクのクウェート侵攻をCNN の速報で知った。首都バグダッドからのライヴ放送は脚光を浴びて日本でも記録的な視聴率を上げた。
CNN がバグダッドで生き残れたのは特別専用回線を確保してヨルダンから通信衛星でアメリカに送信することができたから。これで一躍有名になるピーター・アーネット記者の通信手段はスーツケース大のインマルサット(海事衛星)電話だった。
アメリカの新聞ニューズデーによれば、CNN だけが「公平」と許可された理由はフセイン大統領が日頃よく見ていたからというのが有力説だとか。 もはや世界を一点から眺める時代ではない。すべての文化的意見、政治的意見、社会的課題、経済的課題を越えて、世界中の視聴者に質の高い情報を送るのがCNN の目標だとディレクターのピーター・ビジーは語る。

▲TAMA- 5 掲載、1991