▼米軍、秘密の世論工作か 金使いイラク紙に記事▼
by 西日本新聞 3 December 2005

ワシントン発:「米軍がイラクの地元紙に金を払い、都合のいい記事を
提供、掲載させている」。米大手紙がイラク駐留米軍の世論工作に疑問
を投げかける記事を相次いで報道。民主国家をめざすイラクで「民主主
義の原則である報道の自由が脅かされている」との懸念が議会などで高
まり、ホワイトハウスや国防総省は調査に乗り出した。

11月30日のロサンゼルスタイムズと12月1日のニューヨークタイ
ムズが米軍当局者の話や文書を基に報道した内容によると、米軍の「情
報作戦部隊」が執筆した記事を、国防総省と契約している民間企業「リ
ンカーン・グループ」(本部ワシントン)がアラビア語に翻訳。同社の
イラク人職員らがフリーの記者を装い、イラクの新聞社に記事を持ち込
んでいる。例えば、あるイラク紙は1500 ドルを受け取り「開発事業に
追加資金」と題する記事を掲載した。こうした記事の多くは事実に基づ
いているものの、米軍の仕事をたたえ、都合の悪い要素を省いていると
いう。

ニューヨークタイムズは「国務省や国際開発庁がジャーナリストや独立
メディア育成のために数百万ドル(数億円)を投じているときに、国防
総省は報道の自由を脅かす作業のためリンカーン・グループに数百万ド
ルを払っている」と、イラク政策のちぐはぐさを指摘した。

ペース統合参謀本部議長は30日、米テレビに「民主主義の育成に害を
及ぼすことを懸念している」と語った。国防総省高官によると、議長は
現地幹部に説明を求めているという。また、マクレラン大統領報道官は
1日「詳しい報告を国防総省に要求している」と述べ、事実の把握を急
ぐ考えを示した。

=================================================

▼イラク紙に現金、復興称賛させる▼朝日新聞 2 December 2005

イラクの有力紙アルマダには7月末、米ドルの札束を持った男が現れ、
「テロリストがスンニ派ボランティアを襲撃」という持ち込み原稿の掲
載を依頼。同社は900ドルを受け取ったという。

イラクでの心理戦はこの1年で強化され、ある軍当局者は、「新聞社を
1社買収し、ラジオ局も掌握して、米国寄りの情報を流している」と話
しているという。

ラムズフェルド国防長官は29日の会見で、フセイン体制崩壊後の成果
として「イラクの自由なメディアの成長がある」と自賛したばかり。

=================================================

▼リンカーン・グループ社▼ニューヨークタイムズ 1 December 2005

今週、「民主主義のイラクに吹きつける砂嵐」と題されたオピニオン記
事がイラク国内メディア用に作られ、西側諸国で高まりつつある米主導
のイラク政策失敗論を一蹴する内容となっている。

「西側報道機関や客観的立場を主張する多くの評論家たちは、私たちイ
ラク人による国家再建をただ批判することしかしていない」

最初にそう書かれた記事には預言者マホメットの格言も引用され、国家
の統一と非暴力主義が唱えられている。イラク人記者によって書かれた
この記事、実は米軍が数百万ドルを投入してイラク国内で開始したプロ
パガンダ計画の一環。複数の軍関係者がニューヨークタイムズに語った
ところによると、月給制で契約を結んだイラク人記者らに「アメリカの
イメージ改善を目的とした記事」を書かせているとのことだった。

ペンタゴンの内部文書によれば、前出の記事は11月29日にワシント
ン市内にあるPR会社「リンカーン・グループ」に送られており、ワシ
ントンの本社でアラビア語に翻訳された記事が、イラク国内の主要メデ
ィアに掲載される予定だったとのことである。

1999年設立のリンカーン・グループ社は、米軍によって作られたプ
ロパガンダ記事の翻訳とイラク国内メディアへの売り込み業務を担って
おり、イラク国内のメディアに米軍による関与を明かさずに近づく仕事
を行ってきた。これまでに数十本の記事がイラクの国内メディアによっ
て掲載されたとのことで、記事の掲載をめぐってリンカーン社から新聞
社に現金が支払われたケースも少なくない。前出のペンタゴン文書には
今回の記事の掲載先としてイラク国内の独立系新聞「アザマン」が選ば
れたと書かれているが、実際に記事が掲載されたかについては不明だ。

国務省や米国際開発局はすでに民間企業と協力して、イラク人ジャーナ
リストの養成や独立系メディアの設立に関わっているが、今回のように
米政府機関がイラク国内のメディアを使ってプロパガンダ活動を行うケ
ースが発覚したのは初めてのことだ。

リンカーン社はイラク国内の新聞社に記事掲載の見返りとして現金を支
払うだけでなく、十数名のイラク人ジャーナリストに対しても毎月数百
ドルで契約を結んでいるようである。匿名を条件に関係者の1人がニュ
ーヨークタイムズに明かしたところでは、この記者らは過去にアメリカ
の政策に関し友好的な記事を書いていたことから抜擢の対象になったと
のこと。

米軍によるプロパガンダ記事作成のニュースは11月30日にロサンゼ
ルスタイムズによって初めて報じられたが、米軍高官がニューヨークタ
イムズに語ったところによると、ピーター・ペース統合参謀本部議長を
含むペンタゴンのトップらも30日になって初めてリンカーン社の存在
に気づいたのだそうである。

このプロパガンダ作戦はイラク駐留米軍とリンカーン社が中心となって
行われており、すでにペース議長を含むペンタゴン高官はイラク駐留米
軍幹部らに詳細を説明するよう求めている。

ビジネスマンと退役軍人らによって1999年に設立されたリンカーン
社は昨年、イスラム諸国におけるイメージ改善を優先課題に挙げたペン
タゴンによって採用されている。

リンカーン・グループ社は米軍が駐留している国で「戦略的な広報」を
実施する契約を米軍と結んでいる。(朝日新聞12/02)

IPSO FACTO
http://blog.goo.ne.jp/newsbistro/d/20051202